インタビューvol.16 菊地雄亮さん「心を体で表現する空間づくりを目指して 」

ダンサーであり心体表現者の菊地雄亮さんはPAJ主催講習会に参加してくれたご縁でPAJファシリテーター勉強会の講師をしてもらいました。(ワークショップの様子はこちら

踊るって何だろう?それはどんなことが起きるものなのだろうと思いながらお話を伺いました。

正解のない世界

ーーいつからダンスを?

ダンス自体は正式には大学から始めましたが、小学生のときに子役をしていた関係で、日本舞踊や能を習っていた経験がダンスを始めるきっかけになりました。

本当は大学では演劇サークルに入ろうと思っていましたが、行ってみたらちょっと合わないなと思っていたところ、たまたま同じ建物にダンスサークルがあったんです。正直当時はダンスは怖い人がやる印象があったので、ダンスに惹かれたというよりは人に共感して、その人たちと一緒にいたいなと思うコミュニティが、たまたまダンスだったという感じでした。

ーージャンルでいうどんなダンスですか?

ジャズヒップホップダンスがメインのダンスのジャンルです。一般的にはバレエみたいな動きで、キレキレのダンスを歌詞の意味を汲み取って踊るのが僕のダンスの特徴ですね。

僕は小中学校で吃音障害みたいな感じで、言葉がうまくしゃべれませんでした。音読するとつっかえたり、どもったりして馬鹿にされて、ちょっとしたいじめを受けたこともありました。人に認めてもらいたくて、高校ではそれを変えようと思い、まずみんなを認めようと当たり障りのない「みんな最高!ありがとね!」と人を褒めるような発言を連発していたら、逆に偽善者とあだ名をつけられて…。

その後、大学で初めてダンスと出逢って、何でも表現してよくて、正解がない世界と出逢いました。正解がないと思って、自分が今感じている事や気持ちを表現したらそれが正解になるということをたっくさんの人に教えてもらいました。その事実に出逢ったときに僕の人生は救われた気がしたんです。

踊るという感覚

ーー踊るのは楽しいですか?

もちろん楽しいです!怒った顔して人のことを褒めたり、笑った顔で怒るのって難しいですよね。「病いは気から」と言うように、「気は身体から」と僕は思ってるのですが、それと同じで、曲調にもよりますが、楽しい音楽に身体を揺らしてると、心もなんか楽しくなっちゃいます。

ダンスの本質的な部分は技術よりも、いかに自分らしくいるかということだと思っています。つまり、ダンスは言語にとても近いと思っています。

伝わりやすくするための技術としてロジカルシンキングが大事だと言われています。もちろんトレーニングした方が多くの人に届けることができるので大事な技術だと思います。しかし、本当に大事なのは、言葉にしっかり心を込めていたり、本当に自分が想っている言葉を届けることです。その方が相手に届けられるのだと思います。言葉もダンスもまず自分の感覚に耳を傾けることが一番大切なことだと思っています。

自分らしさを表現する

ーーどんなワークショップをやっていますか?

「BE A HERO project」という「人は生まれながらにしてHERO」であるという事を再認識する空間作りのワークショップをしています。

HEROと聞くと仮面ライダーやウルトラマンをイメージしてしまうかもしれませんが、ここでは「唯一無二で必要不可欠な存在」と定義し、「みんな世界に一人しかいない大切な存在」なんだということを表現教育を通して伝えています。

 その表現方法の基準として、「自分らしく」いることができたかを必ずワークショップ中に問いかけるようにしています。
 子どもたちには「ハンズアップワークショップ」と言って、自らの意識で手を挙げることを選択し、人の前に立って自分の気持ちや想いを言葉と身体を連動させて伝える機会をつくるワークショップをしています。

 大人には、シリコンバレーで流行っているインプロビゼーションと言った即興劇やダンスを取り入れて、予定調和にいかない現実を受け止め、今の自分の最大限のパフォーマンスを引き出すワークショップなどを実施しています。

ーーその「自分らしく」に体は密接ですか?

僕は密接だと思います。例えば、人を巻き込もうとして、淡々と「僕は本当はこういう風にしたい」と発したとして、論理(言葉)としては「こういう風にしたい」と言っていることが理解はできます。しかし、理解できているだけで伝わっているわけではありません。そこに表情、指先、目などの体を使った反射的に出た表現が加わることで、言葉に自分らしさ(キャラクター)が乗っかります。それは意識して体が動いているのではなくて、勝手に動いちゃうものです。込み上げる思いがぶわっと出ている瞬間こそが邪念や不安がなく、まっすぐ自分の気持ちが相手に伝わると思うのです。

人を巻き込むうえで、ロジカルシンキング(論理思考力)だけでは理解はできるが、心理的な変化を生み出すのは難しいと思っています。そこにフィジカルシンキング(身体的思考力)もすごい大事なんだと伝えていきたいと思っています。

陽気でいる

ーーご自身の自分らしさは何ですか?

僕はまず陽気でいることが大事だと思っています。僕は今、人の悪いところがあまり目につかないんです。この人にはこういういいところがあるな、それをどう活かそうかと発想を転換しています。

僕に対してすごい文句言っている人がいたとき、「わーこれはすごい成長するなー」「面白いなあ」「なるほど」とポジティブに受け止める習慣を作っています。

僕に対して文句を持ってる人がいて、それがあまりにも理不尽過ぎたら苦しいですけど、自分のために言ってくれているなと思えば、褒め言葉にきこえます。そういう人がどんどん言ってくれるような環境をつくらなくてはいけないと思っています。常に自分が成長したいので、陽気でいたいんです。

例えば子どもたちが「このプログラムつまんねぇ」と言ったら、そこに興味があるのできいてみたいです。僕にとってはいい判断材料になり、知見が高まります。なんでつまらないかを知りたいと思うことを大事にしています。

ーーポジティブに居続けるのは難しくないですか?

難しいです。もちろん僕もネガティブな部分も持っていて、ネガティブな部分を大事にしているから陽気でいられるんです。

僕はお風呂場をネガティブスポットとして大事にしています。あとは自分のチーム内でひたすら駄々をこねるようなときもあります。そうやってネガティブを吐き出すところがあって、バランスを保っているのかなと思います。

僕、成長意欲が強い方だと思います。そのために陽気でいないと成長する機会を損失してしまうと思っています。

だからネガティブな部分は自分の居場所として大事にしておいて、ポジティブな部分で動いていくのが大事だなと思っています。

ライフワークとしてのダンス

ーー心体表現者としてこんな風になりたいというのはありますか?

僕は感動を共有できる空間をつくれる人になりたい。感動を強要するわけじゃないですけど、ダンスをみた人が「自分はあのとき、あんなだったな」と思い出せる何かのきっかけを引き出せる心体表現者になりたいです。

100パーセントで心を体で表現するのはかなり難しいと思います。僕は小中高校生のときに、ずっと自分の心に嘘をついて体と言葉で表現できなかった時代があったので、そのときの自分に何かできたらいいなと思ってやっています。

ーー今は心を体で表現できるという実感がありますか?

できているときと、できていないときがあります。僕はこんなことをやっていますが、感情表現が苦手で、涙とか出ないタイプだったんです。あと笑い方が嘘っぽいねって言われました。今でも、もがき苦しみながら受講生からも学ばせてもらいながらやっています。だから今、こういうことに悩んでいるということを正直に言うことで、逆に心を体で表現できているんです。

ーーなんで踊るんだろうと考えたりすることありますか?

それは無くなりましたね。ダンスがライフスタイルみたいな感じです。それは「なんで生きているの?」と同じような質問で、なんで踊るんだろうというのは、逆に考えられないです。踊らない理由がないという感じなんですよね。音があったら踊っちゃうし、嬉しくなったら声をあげたくなる。それもダンスみたいなものです。

ーー10年後、20年後にやりたいことは何ですか?

やりたいと思っていることのひとつには、「教育的空間デザイン」があります。自分の言葉や想いが引き出されたり、何か発言したくなったり、表現したくなるような空間づくりを広めたいです。自分が自分を表現したくなってしまうような空間を、先生やコーチでもなく「人」として向き合い、共に創っていけたらと思います。教科書には載っていない、目に見えないあたたかい空間づくりのような教育をリードしていく存在になります。

(インタビュー:寺中有希 2018.9.26)

プロフィール

心体表現者 菊地 雄亮(きくち ゆうすけ)

1992年生まれ。プロダンサーとしても活動し、社会が制限している人間のポテンシャルを引き出そうと、新しい視点でチャレンジしている志に共感し、2017年に株式会社R.projectに参画。
小学校の時に俳優を目指し、芸能事務所に所属した際にある撮影でスティーブン・R・コヴィ―の「7つの習慣」と出逢う。小学6年生から学び始め、他にも多くの研修や講演会をまわる学生生活を過ごした。現在、”心を体で表現する”をコンセプトに音楽とダンスを通して、人の自分らしいを発見する場所作りに着目した「教育的空間デザイナー」として、BE A HERO projectを立ち上げ、企業研修や、子供向けのワークショップ等も展開している。

【ダンス実績】
2013年 DANCE@HERO JAPAN 5th SEASON 準優勝
2013年 AKS公式恋するフォーチュンクッキーMISS&MR COLLEver. 日本交通ver.振付
2014年 関東大学学生ダンス連盟Σというダンスサークル45大学55サークル総勢8000人の加盟者が所属する学生団体の会長を務める
2015年 中野区アイドルナカ×ナナの演出&振付を担当
2017年 極楽とんぼ山本圭壱のお笑い単独LIVEダンス演出&振付&出演
2017年 ベタックマPR香港 WebCM出演&振付 
2017年 極楽とんぼ山本ユニットLIVE出演&振付

【MC実績】
2017年 NAKANO DANCE JUNCTION MC出演
2017年 渋谷のラジオ87.6MHz FM レボリューション部 ナビゲーター (2018年4月終了)
2018年 FIRST DANCE LIVE ナレーター

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