インタビューvol.21 寺中有希「変わっていくことに身を委ねる 」


Beingインタビュアーの寺中有希。Beingを立ち上げ、PAJ(プロジェクトアドベンチャージャパン)の広報を担当し始めて1年と少しが経ちました。いつもはインタビューする側ですが、同僚の渡邉貴大の協力を得て、インタビューされる側に立ってみました。インタビューされる側から見える風景とは。

プロジェクトアドベンチャージャパン(PAJ)を立ち上げる

ーーいつからPAJにいるんですか?

設立の1年半か2年くらい前から関わりました。大学3年生くらいでした。大学を卒業してPAJに入社しましたが、1年くらいで退職し、3ヶ月間、ネパールに滞在しました。その後、米国大学・日本校の事務局で働いた後、27才のときにPAJに戻ってきました。

ーー業務内容はどういう風に変わっていったのですか?

もともとはファシリテーターをやりたくてPAJ設立を手伝っていました。設立時は今のように教育プログラムを実施する仕事が少なかったので、事務8割、ファシリテーター2割くらいでした。27才で戻ってきたときに私が「事務をやります」と言ったときには、すぐにファシリテーターをやりたくなるだろうと思われていたようです。でも私は2年間、他社での事務の仕事の経験があり、事務をしたいと思いました。

でもそれでは飽き足らなかったのでしょうね。戻ってきてからも、ときどきPA関連の本の翻訳や企画編集を2年に一回位やっていました。

ーー本をつくる、翻訳することは、どんなところが魅力だったのですか?

文字に残るところです。人が考えていることや思っていることは、喋っていると消えてしまいますが、それが消えないで、ずっとここにあって、それが誰かの目に留まる可能性が高いところが魅力です。

いまは違うかもしれないけれど、私が本をつくり出した頃はインターネットが普及していなかったので、本さえ出せば何か伝わると思っていました。誰かが読める、アクセスできるものをつくるということは、私にとって大きな喜びです。

インタビュー思考

ーーその喜びは今も変わらず?

そうですね。でもいまはインタビューの仕事をしているので、本をつくるのとはちょっと思考が違うかもしれないと、いま思いました。

本をつくるときは、構成を考えて、どうやったら伝わるかということを練ってつくります。章立てをして、執筆分担をしていきます。でもインタビューは、「生まれてきたものを拾うしかない」というような感じがします。

一番にこれをきく、二番にこれをきく、まとめにこれをきくと構成してからきくということもできるかもしれないけれど、いまはそういうやり方をしていません。仮にそのやり方をしたとしても、そのとき、その場にいる話し手の言いたいことが出てくるものだから、一生懸命、出てきた言葉を摘んでいる感じです。出てきた芽や花を受け取って、並べている感じです。

本の方は、種が埋まっていて、それが咲くのを待つ感じです。この辺りで咲くはずだからとアタリをつけて待っています。

ーーはじめはファシリテーターとして、本をつくって、いまはインタビュー。その節目節目で違うことをやるようになったきっかけはありますか?

私がつまらなくなったとき(笑)。なんかつまらないなあみたいに思ったときに、次のことに出会っている気がします。つまらないなと思っているのは大事で、そう思っていると、「つまること」が見えてくる気がします。

ーーつまらないときはどういう感じなんですか?

感覚的に言えば、自分の中で変わっていかない、積み重なっていかない感覚があります。このままずっと私はこうなのかな、みたいな気持ちになります。でも最初の話に戻りますが、PAJをつくるときも、ただ楽しそうだからという気持ちで手伝っていたんです。その感覚は変わらないかもしれない。面白そうだから、PAJも本もつくりたくなったんです。

ーーつまらないことも大事というのはどういうことですか?

つまらない状況に置かれないと、何が面白いか、何を必要としているかもわからないからかなと思います。インタビューの仕事を始める少し前、なんだかとてもつまらない時期だったんです。自分がやっていて意味があると思えることがひとつもなくて、つまらないなあ、つまらないなあと思っていました。でも喉が乾いてみないと自分にとっての美味しい水がわからないし、そういう飢餓感の中で何かを探すのが好きなのかもしれません。どうしようもなく喉が乾くというのは、よかったなと思います。

ーーいまインタビューの仕事をメインでやりながら、メディアもつくりながら、美味しい水を飲んでいる感じなんですか?

今はお腹いっぱいな感じ(笑)。水を飲みすぎている感じがします。でもそれはインタビューをやりきったからお腹いっぱいなわけではないんです。むしろ、最近スランプ感があります。

「Being」は「あり方」という大きなテーマを掲げています。インタビューをするその場その場では素敵な話をきくことができて楽しいし、幸せなのですが、自分に何かが足りないような感覚に陥ります。

ーーつまらないとは違うんですか?

つまらないとは違います。スランプな感じがして上司(ちゃっきー、茶木知孝)に相談したところ、「スランプになる必要がありますか?「Being」はある意味テーマがないようなもので、その人のあり方についていけばいいのだからスランプなんてあり得るんですか」と言われたんです(笑)

ーーそれはすごいわかる部分があります。僕も面白いことや割と好きなことをやっているけれど、なんだか納得がいかないことがよくあります(笑)。なんか違うなみたいな感じ。自分自身も書き換わっていくので、昨日見ている視点と、今日見ている視点も、自分の嗜好性も変わっていきます。そういうものについていくのは自分でも大変だなと思います。

インタビューのはじまり

ーーインタビューを始めたきっかけは?

2017年7月に西村佳哲さんの「きく」という6日間のインタビューのワークショップに参加しました。ワークショップから帰ってきて、どうしてもインタビューしてみたくて上司に提案しました。私はPAJのHPに小さなインタビューコーナーをつくりたかっただけなのですが、どうせやるなら新しいメディアを立ち上げればいいじゃないかと言われ、トントン拍子に進みました。ただ自分がインタビューしたかっただけなのに、話が大きくなってしまいました。でも何かが始まるときは大体そんなものかもしれません。

ーーPAJのスタートもそうですよね、楽しそうだからと。一番いいと思います。

PAJをつくった頃、絶対にPAが日本にあったらいいと信じていました。最近は「PA」でなくてもいいのではないかと思っていることもあります。

それはPAがもう古いとかそういうことではなくて、いま世の中に学びの機会が溢れている中で、PAというものに固執していたら、つまらないのではというような気持ちです。

とどのつまりはPAとは何なのかということに立ち返りますね。そこがいま私の中で一番わからなくなっている時期かもしれません。設立してからもう25年近く経っているのに未だにそんなことを思っています…。

自分も変化する

ーーいまのところ、PAをどういうものだと思っているんですか?

そのときに一番面白いことをやるのがPAだと思います。だからアメリカの創始者のジム・ショーエルやカール・ロンキみたいな人が、そのときに一番面白いと思ってPAをつくったんだと思います。「ザ・PA」に固執していた私がそう思ったことは、大きな変化なのではないかと思っています。

ーーいつ頃そう思いましたか?

インタビューをやり始めてからだから、この1年くらいですね。いま、PAJではアドベンチャーパークなどのレジャー施設をつくっていますが、以前は「それはPAではない」「なんでPAJがレジャー施設をつくらなくてはいけないのか」とずっと思っていました。

ーーいまはその部分はどう捉えているんですか?

今はスタッフインタビューなどを通して、アドベンチャーパークをつくっているアドベンチャークリエーション部門のスタッフの思いや情熱を直接感じることが出来ているので、応援したいと思っています。

私は、PAというアイデンティティをずっと守ろうとしてきて、本をつくること、HPをつくることをしてきた気がするんです。だからいまは少し揺れています。クラシックな「ザ・PA」を守っていくことがPAJを最初につくったうちの一人として大事なことなのか、それとも時代の動きの中で新しいかたちになっていってもいいのかを考えているところです。

ーー結論は出ていない?

出ていませんね。私は大きなことを考えられない人なんだと思います。だから筋道を頭で考えるよりは、眼の前にぱーんと来たものを捕まえて、それが面白そうなものならやってみるのが向いている気がします。だからPAが新しいかたちになっていくのだとしたら、それは面白そうだからという気持ちで進んでいったらいいなと思います。

変化の海を泳ぐ

今、PAJはすごく変化しています。最初はその変化することそのものに慣れるのが大変でしたが、いまは「物事は変化していくものだ」と思えるようになりました。だから変化するならもっとばーっといろいろなものが変化して、みんながもっと好きなように変わっていってもいいのかもしれません。変化してぱんとはじけたら、それまでかもしれないし(笑)、何かが生まれるかもしれません。いま、PAJがどんな組織になるのか、全然想像がつかないです。

以前は想像がつかないことが起きたとき、変化を拒否することで自分を保とうとしていた気がします。またその変化に対するデメリットをまず探していました。いまは変化することをぼんやりと眺めることから始めています。

変化に飛び込むよりは、まず眺めて、そして変化への対応にゆっくり関わっていこうとしています。変化は起こるものだから、起こること、起こったことを受け止めてみることが大切だと思います。

いま、PAJの変化のスピードは速く、私はついていけているのかわからないし、本来はとても怖がりなので、変化したくないし、じっとしていたいです。でも変化するのは楽しいことだという実感もあるので、まずは波に乗ってみます。

私は言葉にしたり、かたちとして見えるものにするのが好きだから、PAJがどうなっていくかを見えるようにしたいと思っているかもしれません。スタッフインタビューもそのひとつですね。変化の過程をグラフなどで見るのは苦手なので、言葉で積み上げていくという作業をしていきたいし、働いていることを面白いと思って生きていたいです。

Beingやスタッフのインタビューをしていて思うことは、誰かの話をきいているだけなのに、自分の中の細胞が変わっていく感じがあります。その人に影響されていきます。それはなんて幸せな仕事だろうと思います。

同時に自分のいま、あり方が問われ、突きつけられることも多々あります。いま、インタビューの仕事にスランプ感があるのは、いまある自分から変化したいと思っていたり、変化しようと思っているからかもしれません。それは待っていて変わるものではなく、変化の波に身を委ねながら、なんとかたどり着いていくしかないのかもしれません。そんな変化のただ中に、いま、います。


(インタビュー:渡邉貴大2018年11月20日)