インタビューvol. 27 﨑野隆一郎さん「壊す、生む 」



ツインリンクもてぎ、ハローウッズの森のプロデューサーの﨑野隆一郎さん。里山づくりや森の計画づくり、そして小中学生向けの30泊31日の「夏のガキ大将の森キャンプ」を運営しています。毎夏、火を熾せないでご飯を食べられない子どもたちと、それに付き合ってご飯抜きで過ごしている﨑野さんの様子をfacebookで見ながらドキドキしています。

森のプロデュース

ーー﨑野さんの考える森のプロデューサーとは何ですか?

森の計画を立てて、何十年先をどうしていくのかということを考える仕事です。
Hondaは40年前から世界で一番木を植えたと言われている宮脇昭さんという人の理論で、どんぐりから木を育てる森づくりをやってきました。

ハローウッズでは、森の再生はもともと里山でやってきた萌芽更新という方法でやっています。宮脇理論でやっていくと、どんぐりは一年に数センチしか伸びないので、木が大きくなるのにものすごく時間がかかる。ところが萌芽更新という切り株から芽を育てる方法だと1年に2m近く伸びます。だいたい12、3年すると、元の木のサイズに戻ります。昔の薪炭林では、チェーンソーがないから木を手で切っていました。だから大きい木ではなくて、人の手で切ることができる太さである12、3年目に切って炭にしていました。そういうサイクルで森を活用してきたんです。

エネルギー革命によって化石燃料、電気を使うようになって炭を使わなくなり、日本人は森を使わなくなりました。放置された森は生態的に次のステージへ遷移していきます。

40年くらいならまだいいけれど、100年、200年単位で放置していくと、落葉広葉樹林だったところが照葉樹林になって極相林になってしまいます。そうなると火事などがない限り、森は遷移しなくなってしまいます。
一般的には鎮守の森のように、手付かずが自然だと思われることが多いけれど、僕たちは里山の考え方なので、10数年前後で必ず木を切って、人間の手で管理ができる高さにしています。

思いと哲学

ーー森を維持管理するには手間がかかりますね。

生き物を相手にしているので、森の管理をフリーメンテナンスにすることは無理です。人間に関しても、子どもを生んで育てるということは、死ぬまで責任があるわけでしょう。子育ても森も、お金をかけて面倒をみたり、整備しても、台風や干ばつが来て変わってしまうことがあります。

ーーどちらも常に手をかけることが大切なのですね。

いま日本の教育について言えば、教育する側にもされる側にも想像力がない。だからみんなマニュアル化されていってしまう。僕に言わせれば、教育の方針なんて昔から変わらない。想像力が大切なんです。子どもたちには自主性を持たせることが一番です。自発的に行動するための根源は、「考える人になれ」ということです。キャンプに参加しちる子どもたちにいつも言っています、考える人になれと。

あとは哲学が大切だという話をしています。この森をつくっていくためにはコンセプトが必要で、そこには森に対する思いと哲学がないとダメだと、キャンプに来ている小中学生に哲学の必要性の話をしています。

子どもたちには考える人になって欲しい。考えることによって、ものをつくる「創造力」と自分がイマジネーションする「想像力」が湧いてきます。どちらもとても大切で、物事や人に対して創造・想像的な人間になってほしい。

一番怖いのは、物事を単一にしか見ないで、ワンパターン、マニュアル化され、何も考えなくなることです。創造・想像力が失われていきます。

皮膚感覚の体験

スマホなど、指と目だけで物事を追いかけていると、皮膚感覚や五感で感じることがどんどんなくなっていきます。

北海道でものをつくっていたときは、手でものを考えろと言っていました。手で触ってみてこれは大丈夫、これは危ないと判断できることが大切です。

植木の剪定をするときも、木に登って枝に手足が触ったときに折れるかどうかがわかります。それは何回も木から落ちたことがあって、折ったことがあるからなんです。

それは経験しないとわからないのに、いま子どもたちにそれを経験させる場所がどんどん減っているでしょう。そういう失敗の経験をしていかなかったら、子どもたちは考えることも、想像することもできなくなってしまいます。

森のかたち

ーー森の最終形、﨑野さんが一番つくりたい森の形は?

循環する森です。うちには木がないエリアも、育っている樹林もあります。木を切ったばかりのところが草原になって、お花畑になります。木がそれぞれに育って、1年生、3年生、5年生、10年生の木があって、それが循環できていったらすごく面白いなと思います。多様な年代の森があることの他に、もうひとつ大切なことは一切手を付けない場所も残しておくことです。

ーー森に多様性は大事ですか?

多様でないと面白くない。屍から稚樹まで、多様な世代が共存する森がいい。それは人間も同じ。3世代、4世代が同居するイメージ。単一になると森も人間もすごくつまらない。

人間も育ってきた環境などによって、すごく多様性を持っている人や持っていない人がいたり、柔軟性を持っている人や全くない人がいます。自然も同じです。森は東西南北でいろいろと表情が違います。それをどう組み合わせて生かしていくかということがプロデューサーの仕事だと思うんです。

誰と誰を組み合わせたら、200のちからになるか、あれとこれを合わせたらマイナス効果になるかなどを考えます。失敗例もありますが、人も森づくりも多様性の中で個性を見極めてくっつけていくのが面白い。

破壊と再生

ーー組み合わせるのは難しいですか?

めちゃくちゃ難しい。その中で一番魅力的なのは、「破壊と再生」。里山というのは破壊と再生の繰り返しです。田んぼは毎年稲を育て、また耕す中で破壊と再生を繰り返します。薪炭林は10数年くらいで切り、草原は牧草を刈ってまた耕します。それは里山という自然のひとつの形なんです。破壊と再生はものすごく大切だし、多様性の根源だと思っています。

ーー「破壊と再生」は人間や子育てにも当てはまりますか?

キャンプでは夜が明けたら叩き起こして、日が暮れたら寝させる。それを一ヶ月間繰り返すことで子どもたちの体がリセットされます。キャンプが終わって家に帰って一ヶ月経つと元に戻ってしまうけれど、その破壊と再生を何回か繰り返しながら成長していくと、自分にとっての気持ちよい生活リズムがわかるようになると思っています。

コンビニに行ったり、蛍光灯の下でyoutubeを見て、音楽を聴いて、昼夜関係ないような生活をしていたのに、音楽がなくてもyoutubeがなくても、自分は生きていけるんだと思える体験がキャンプにはあります。夕食をろうそくの明かりだけで食べるということが、すごくいいコミュニケーションをとる時間になったり、質のいい睡眠を取ることにつながるんだなと子どもたちがわかると思うんです。本物の闇と明りに接し、この感性を鍛え生きることに集中して毎日、一ヶ月間続ける。それが考えることにつながると思っています。

「考える」を育てる

ーー本物を体験すると考えることにつながりますか?

本物というか、面倒くさいことをいっぱいさせるということだと思うんです。便利な世の中だけど、面倒くさいことをいっぱい体験させることによって、「自分でやらなきゃいけないんだ」と考えることにつながります。

ーー子どもたちが自然に近いキャンプ生活を繰り返す中で、考えるようになってくると感じますか?

いままでは子どもたちに怒ってばかりいたけれど、怒っているだけでは人は考える人にならないと気づきました。学校やいろんなところでいつも怒られたり、注意されたりしているから、考えないで流して嵐が過ぎるのを待ってしまう。

ちゃんと目を見て、きちんと対峙して、怒るときは怒る、褒めるときは褒める。その微妙なバランスが大切です。褒めてばっかりでも、怒ってばっかりでもダメです。

子どもたちにかかっているヴェール、包まれている部分をどうやって剥ぎ取っていくかは、まさに「破壊と再生」です。褒めることと怒ることをうまく利用することが大切です。

もうひとつは疲れさせること。本当に無駄なこと、理不尽なことをいっぱいやって疲れさせて、自分たちの価値観を一回ぶち壊します。具体的には、生活の水を運ぶために坂道を何往復もさせます。面倒くさいと思っていた掃除や水汲みなど、やってみたら楽しいと子どもたちが言います。

いま、大声を出したり疲れるまで走り回っていいところなんてないでしょう?木登りや石投げ、火遊びもできない。学校や家で吠えたり騒いだりできない。

そういういことをさせないから、心と体が成長しない。抑圧された中で問題が出てきてしまう。だから1年に1回、1週間でも1ヶ月でもいいからそういうのから解き放たれて発散する場所がないといけないと思っています。

人と向き合う

ーーキャンプで一番大切にしていきたいことはなんですか?

生き残る秘訣は多様性にあり!心とからだの破壊と再生、いろいろな事を考える人になれということです。

ーー﨑野さん一人ひとりの子どもと向き合っていくときに大事にしていることは何ですか?

いつでもお互いに心を素っ裸にできることです。子どもたちのことは、同時代を生きている仲間だと言っています。「俺は昭和生まれで、お前たちは平成生まれだけど、時代云々じゃなくて、いま、この時代を共有してい生きている仲間なんだ」と言っています。

落差

ーーまだやっていなくてこれからやりたいことはありますか?

大人のキャンプをやりたいです。グランピングを自分流にやりたい。もともとホテルマンであり庭師である自分が、自分なりにしつらえた場所で自分なりのおもてなしをしたいです。ちょっと違った視点や感覚でのグランピングです。森を最大限に利用して、水の流れや風、景色とか全部含めてプロデュースしたいです。「風景には訳がある」と思っています。僕がこだわる風景をみせたい。

毎年、竹富島(沖縄県)に行っています。竹富島の家には、蛍光灯もテレビも何もない。ガラス戸も障子もなくて、雨戸しかないんですよ。クーラーはないけれど風が抜けます。そういう中で生活するということが大切。オーバーに表現すると近代文明の破壊と再生をする感覚で、竹富島でのシンプルな生活が一番いいです。リセットされます。

ーー電気がないような生活が好きだけど、グランピングも好きなのですか?

両極端なことをするのが一番なんです。先程の「破壊と再生」と通じることです。都会の生活もやればできるけれど、電気のない生活もできる。いろいろなことの差があればあるほど、僕は人としての生きるエネルギーが湧いてきます。電気も落差でできるでしょう。落差をなくしてみんな中流意識とか言うけれど、落差があるほうが活性化していいんですよ。

ーー子どもたちの日常生活の中に落差はあるんでしょうか。

近代の家庭・学校・社会には無い。だからそれをキャンプで教えています。ご飯を作れなかったら食事無しです。泣こうが喚こうが無いものは無い。だから僕も食べません。それは一番最初のキャンプ説明会で話して了承してもらっています。

ーーご飯を作れなかった子に付き合って﨑野さんも食べないということには意味があると思いますか?

それをしなかったら、信頼関係がないでしょう。お互いに裸になって付き合うという意味での原点がなくなってしまいます。僕は先生や大人にはならずに、一ヶ月間は子どもと同じように過ごします。それが僕流の付き合い方なんです。

(インタビュー:寺中有希 2019.6.11)




プロフィール

﨑野 隆一郎(さきの りゅういちろう)

ハローウッズ森のプロデューサー
1957年 鹿児島生まれ
1981年 大雪山国立公園内の然別湖畔に移住、冬季湖上に氷上露天風呂、アイスバー、氷上ミュージアム等を設計建設。然別湖コタン運営企画に携わる。
1999年 本田技研工業(株)新プロジェクト自然活用アドバイザーとして参画
2002年 夏より自然の中で30泊31日を過ごす『ガキ大将の森キャンプ』を実施。
様々な昆虫や動物の隠れ家、棲み家となる『生命(いのち)の塔』を設計、建設したり、一般参加者と共に里山の森の再生・保全をプログラムに盛り込んだ『森づくりワークショップ』を実施する。
2008年4月には森を躍動的に観察することを実現した新しい施設森のジップライン ムササビの企画プロデュースをするなど自然案内のプログラムリーダーとして活動。

関連書籍

「ガキ大将の森」編著:﨑野隆一郎 発行:小学館スクエア

「あんこ」文:清水達也 絵:松下優子 監修/解説:﨑野隆一郎 発行:星の環会