インタビューvol. 30 キリーロバ・ナージャさん「変な子のまま!」


絵本「ナージャの5つのがっこう」の作者で、世界の教育事情をレポートしているキリーロバ・ナージャさん。世界の国々でサバイブするために身につけてきたナージャさんのちからとは。

普通に合わせなくていい

ーーいまナージャさんが一番興味があって、わくわく取り組んでいることはなんですか?

もともとは広告をつくる人ですが、最近は教育関係のことが多いです。日本にもいろいろな人が入ってきたり、制度も変わってきています。そんな中、私の体験や経験が生きてくるのではないかとこの数年思っています。目の前にある「山」に対して何ができるのかを発見したり、別の登山口を探ったりすることが楽しいです。

ーー「山」は何ですか?

私自身が子どものときに変な子だったので、そういう変な子、変わった子、人とちょっと違う子たちを応援したいと思っていることがその「山」かもしれません。でもそれが本当にその「山」なのか、山の全貌は登ってみないとわかりません。自分の特長を生かして、自分みたいな子たちに何かできるのではと思ってやっています。

変わった子をどうするかではなくて、一人ひとりが自分の強みや違うやり方、違う関わり方を見つけることが大切です。欠点だと思われているところを、強みや才能にするのは面白くて、大事な部分だと思います。

私も小さいとき、他の人と同じ感じになりたくて言うことや服装を真似したことがありました。「普通になりたい、他の子と同じようになりたい」ということがあったんですけど、いま考えると、もっと自分の得意分野をリスペクトして、突出していても良かったのではないか思います。そういうターニングポイントや発見を、ちょっと変わった子が見つけるきっかけをつくれるといいなと最近は思っています。

馴染めないから、普通になろうとしている子がいたら、「普通じゃなくて、その変わったところを頑張った方が、自分なりの特長が見えてくるよ!普通とか気にしないで!」と伝えたいです。

やり方を変える!

カナダの学校にいたときにエッセイコンクールでポエムを書いて優勝しました。まだ英語がそんなに得意じゃなかったので、エッセイだと文法などが難しいのですが、ポエムなら面白い言葉の響きや変な文章もアリです。そんな経験から、あっちでは戦えないけど、こっちならどうだろうと、いろいろな科目でも他のやり方を試してみたんです。そうすると意外とうまくいきました。

語彙力では敵わないけれど、いろいろな経験や、いろいろな見方ができるということが転校生人生を送っていた私の強みかもしれないからやってみようと思ったんです。それまでは語学のハンデがあってそんなに勉強ができた方ではなかったのですが、一気にやり方を見つけた感じでした。「こっちが0点でもこっちが100点なら、合わせれば50点になるから合格じゃん!」ということに気づきました。

ゴールは一緒でも、どうやってそこにたどり着くかは、工夫のしようがあります。やり方を変えてみると、いろいろできることがあるし、活躍の仕方があります。

ーーやり方を変えるというのは、どうやったらいいのでしょう?

まず自分が何者なのか、何が得意なのか、わからないといけないと思います。私の場合は、外国の学校に行くということでそこが浮き彫りにされましたが、自分の特長は、なかなか切羽詰まらないとわからないですよね。それぞれの子にそれぞれの特長がありますが、特に日本では、全部を満遍なくやる傾向があるので、「苦手なことを克服しなくては」という風になりがちです。

いろいろやってみるのはとてもいいことだと思います。一度色々やってみた上で、すごく得意なことを見つければ、そこを伸ばしていけば他のできないことをカバーできてしまうかもしれません。その辺りを一人ひとりが発見できたらいいなと思います。

違いが大事

ーー子どもたちの中に人と違うということが怖い、違いたくないということがあると思います。

大人になると違いの方が大事なのに、違うのはダメみたいな空気がありますね。でも意外とダメに見える部分が強みになるんです。人見知りは実はコミュニケーションが得意というような研究結果もあります。

人見知りの子にはこういう能力、すごく緊張する子には緊張するからこういう能力がある…と全てにプラスにできる部分があると思うんです。

自分の特長を知れば、他の子が自分と違う特長を持っていても、「あーそうなんだ」と思えるのでしょうが、自分が普通になればなるほど、普通じゃないことを受け入れるのが難しい。それは想像ができないからだと思います。

世の中に変わっていない人なんていないんです。多かれ少なかれ変!!だからもっとそういう変なところ、人と違うところをさらけ出して生きていったらいいのにと思います。

人見知りのちから

私は超人見知りで、それがずっとコンプレックスでした。大人からの「喋らないとダメ」という圧がすごかったです。アメリカのように自己主張しないといけない国では、喋らないと存在意義がないと、先生にすごく言われました。「一回、喋るまで帰っちゃダメ」と言われて、ずっと自分の欠点だと思っていました。だからこそ、「じゃあどうしたらいいか」ということを考え、喋る以外の部分を工夫してみました。欠点だけど補うことができるということがわかりました。できないことは言われてもできないので、別のやり方を見つけることにしました。

ーー別のやり方に気づくのはいいですね。

どうしたらいいだろうと考えるんです。私は目の前に壁があるときに、どうやって越えるかを考えました。ジャンプできなくても、回ってみたり、掘ってみたり、下から行ってみたり…。

ーーノックしてみるとか(笑)

そうそう!階段をつくるとか、ハシゴかけるとか!できるかなあと思いながらいろいろ試してみるんです。うまくいかなくても、1年もしたら引っ越してリセットするから、また新しいことやればいいと思ってやっていました。それまではあまりスポットライトが当たらなかったけれど、違うやり方や変なやり方をしたら急に褒められて、嬉しかったです。

答えはたくさん

少なくとも私は教育に助けられました。もちろん苦しめられた部分と助けられた部分が背中合わせにあります。

大人になると答えがありません。でも子どもには答えのある教育が、特に日本にはまだまだ多いのです。答えがない、答えが無数にあるときに、どうやってそれに答えるのか、私も最初はどうすればいいのかわからなくて戸惑いましたが、答えはたくさんある方が面白いかもしれません。

教育を変えるのはすごく大変で難しいけれど、ちょっとしたきっかけや気づきを与えることならできないかもしれないと思っています。

大人や子どもに「常識って何だろう」ということを問いかけていきたいです。みんなどうしても常識に縛られてしまう部分があるけれど、あなたの持っている常識と他の人の常識は違うかもしれません。そういうことから「これはもしかしたらこうなのかな?」と考えることで意識が変わることがあります。

ーー答えのないものを探せる機会がもっと増えたらいいですね。

答えのない問題だと、子どもによっていろいろな答えが出て、全部正解という可能性があるので、その幅をみるだけでもすごく面白いです。ひとつの正解を見つけるのもすごいけれど、いろいろな人がいたら自分の特長が出てきます。先生も答えを知らなくてもいいと思うんですよね、子どもたちと一緒に考えたらいいと思います。

ーーナージャさんが答えのないものに取り組んでいるとき、どんな気持ちでやっていますか?

答えがたくさんあるなと思います。「あー!あれもある!」「これもある!」という感じで答えの幅を見ています。

「母だったら、同級生だったらたぶんこう思うだろう」と、他の人の気持ちを考えます。全然違う幅を見るのは面白いし、全部が答えです。

ーー私はついつい本当の答えみたいなのを探してしまっているなとお話をききながら思いました。幅があるんですね。私は答えの中で一番素敵な答えのひとつを探しているのかもしれないと思いました。

最終的にはそうですよね。でも素敵な答えが誰にとって素敵かは変わってきます。私にとってはこれが一番素敵だけど、別の人はこっちの方がすごく素敵だなと思います。

ではあっちは素敵ではないのかというと、そんなことはなくて、そういう議論をするのは面白いです。そこを探ることによって、自分のことも分かるし、相手のこともよく分かります。

ーー世界の教育について記事を書かれていて、一番伝わってほしいことは何ですか?

日本だとみんなベストな答えを探そうとしています。「どこの国の学校がベストですか?」ときかれたりするんですけど、そこには意味がないというか、答えられないと思っています。私だったらこれが一番ヒットしたかもしれないけど、他の人にもそうだとは限らないんです。

違いを知ったうえで、これが自分には合うだろうということを、それぞれの人が見つけないといけません。あとは何のために学んでいるのかという目的ですね。時代が変われば子どもも変わります。いろいろな選択肢・可能性を示すことができても、その中で自分が何を選ぶかはその人が考えなくてはいけないことです。

選択肢がたくさんある中で、私はこれかな、あの人はこれかなと、自分はこれだなということをみんながわかるようになると、教育は変わってるのではと思います。

それぞれの国でみんな全然違うことを言うので、子どもの頃の私は正解がないことに混乱しました。答えは無数にあるので、結局は自分で考えて選ぶということをしないといけないんだと思います。

みんな変!

「多様性」と言ってしまうと少しずれてしまう部分もあるので、うまく言えませんが、みんな変だからみんな変でいいじゃんと思っています。

ーーみんな変でいいって素敵ですね。

変じゃない人っていますか?変だということにプレッシャーなどを感じてしまったらもったいない!特に広告業界なんて、普通と言われるのが一番ショックなんですよ(笑)

私は大学で佐藤雅彦さんの「表現のルールをつくる授業」を受けて、めちゃくちゃ面白かったです。私が考えてきたいろんなサバイブのためのアイディアにもルールがあるかもと思ったのが広告をやろうと思ったきっかけでした。

ーーお話をきいているとナージャさんがやってきたことが脈々とつながっているんですね。

最近つながってきた気がします。それまでは行き当たりばったりで、やりたいこともそんなにない中で、いろいろな国でサバイブしなければならなかったので…。

ーーなぜそれはつながってきたのですか?

不思議ですよね。でもどこかで、得意なところに流れ着くんだと思います。

ーー自分の得意を生かしていけばつながっていくのでしょうか?

私はその最中は何かにつながっているようには見えないまま、ただサバイブするためにはこれしかない、ということをやってきた気がします。でもそこを信じて突っ走っていれば、たぶんつながってくるんだと思います。


(インタビュー:寺中有希 2019.7.30)

プロフィール:

キリーロバ・ナージャ(Kirillova Nadya)
電通Bチーム クリエーティブディレクター

ソ連(当時)レニングラード生まれ。 両親の転勤とともに、6カ国(ロシア、 日本、イギリス、フランス、アメリカ、 カナダ)の各国の地元校で教育を受け た。広告会社入社後、様々な広告を企画、 世界の広告賞を総ナメにし、2015年 の世 界 のコピーライターランキング1位 に。その背景にあった世界の多様で アクティブな教育のことを、webコラムとして連載し、キッズデザイン賞を受賞。 アクティブラーニングこんなのどうだ ろう研究所メンバー。著書「ナージャの5つのがっこう」( 大日本図書)。 好きなものはゾウと冒険。