インタビューvol. 34 島田由香さん「自分で選ぶ」


一人ひとりが自分らしくハッピーに働くこと、生きることをテーマにさまざまな場で活躍している島田由香さん。ぐんぐん進んでいくそのポジティブなエナジーはどこからやってくるのでしょうか。

ハッピー!

ーー島田さんは「これが自分らしさ」というものをどんな風に感じていますか?

自分がハッピーかどうかですね。この質問をされている寺中さんは、どういう風に思われていますか?「これって自分らしいんだ」と思っている感覚がありますか?

ーーそうですね…。私が言葉にするとしたら、これをやっていて好きだなぁという…。

そうですよね、だからやっぱり「ハッピー」なんです。ワクワクしてる、満たされている、嬉しい、楽しいなど、いわゆるポジティブ感情といわれているものがあるときが、自分らしいのではないかと思います。

ーーずっと昔からそれを軸に生きてきているのですか?

そうですね。逆に私はその質問が出てくる背景を知りたいです。なぜならそれが当たり前なのではと思ってしまうので。

ーー自分らしく生きたらいいよということが、いろいろなところで言われています。こうしてインタビューする方は、自分の好きなことをやっているという方ばかりです。でもその手前で自分は何がしたいかよくわからない人にとって、自分らしさ=自分の好きにやればいいと言われてしまうと、ちょっと辛い気がします。

「好きにやればいいよ」と言われても、何が好きか分からないからですよね。私もいろいろなところで人にお会いしたり、お話したりしますが、そういう人がやっぱり多いんだなと思います。私は2つのことが原因かなと思っています。

感情を大切にする

1つ目は自分の感情を忘れたり、自分の感情を感じないようになってしまっているということ。このことの弊害が自分らしさがわからなくなっているということに直結していると思っています。

2つ目は、自分の感情を感じないようになってしまった理由として、人の目や社会的役割や「何々すべきである」を気にするから本当は嫌だ、違うと思っていても、そこを見ないようにして従ってしまいます。だから感情がわからなくなるんですよね。

感情は大きく分けると、喜怒哀楽の4つがあります。この喜怒哀楽のネガティブとされているものは、怒と哀ですが、多くの人は、これを出すなと言われてきているはずなんです。怒ってはいけない、泣いてはいけないと思ってしまっています。4つの感情の内の2つを抑えると、残りの2つのも感じにくくなってくるんです。

感情は英語で「emotion」です。これは「e-motion」です。「e」は、エナジーで、エナジーのモーションなので、感情はエネルギーの動きなんです。人間はエネルギーで動いているので、感情を感じるというのは人間であることそのものなんですよね。

喜怒哀楽と大きく4つに分けていますが、それがどう現れるかだけの違いで、エネルギーのソース、動きが一緒なんです。その4つのうち、2つを潰そうとするので、残りも感じられなくなってしまいます。

「自分らしさってどうやって見つけるの?」ときかれたら、まず私がアドバイスするのは、自分の感情に意識を向けてくださいということです。朝も日中も夜も、いつもいつも、ふとした瞬間でいいので、ちょっとした感情の上下や広がりに気づいていくと、誰でも自分らしさがわかってくると思います。

日々つくられるもの

ーー自分らしさとは、確固たるものではなくて、日々少しずつ、つくられているものなのですね。

つくられてもいるし、学んでもいるし、広がってもいるし、成長したりしています。自分というのは、ひとりだけではなく、いろいろなパートがあります。そのパート全部が自分だと認めることが大事です。

怒ってしまう自分は嫌いだからと、見なかったことにしないことが大切です。誰かに対して怒ってしまったり、ときには妬みや意地悪な気持ちを持ってしまったり、すごく苦しい気持ちになったりと、ネガティブやペインフル(痛みを伴う)エモーションと言われるものすら、人間であることの証しなんです。それをみんな、抑えようとしてしまいます。

もっともっと内側にあるものと外側に出すものを一致させたらいいのにと思います。だから嬉しいときは嬉しい、嫌なときは嫌だと表現することが大切です。

自分らしくいられる社会

ーー島田さんが考えるご自身のよさはどんなところですか?

すっごいいっぱいありますよ!まずはポジティブ。やりたいことに向かって徹底的にやります。あとは本当に人のことを信じています。何を信じているかと言うと、人は変わるんだということです。人間は本当に愛すべき存在です。いつでも変わるし、素晴らしいものを持っています。そういう気持ちは誰よりも強いと思います。

すごい嫌なことをしてくる人も超興味深いですね。嫌な気持ちになりますけど、どうしてこの人こういうことするのかな?何があるのかな?と興味を持ちます。

根底にあるのは一人ひとりが自分らしくあるということ。それができる社会をつくるということにしか興味がありません。それに関わることに対していっぱい興味があるという感じです。だから私に触れたり、私が関わった誰かが、そういうことをできるようになって、全ての人が笑顔で自分らしく、自分の人生を生きるという社会をつくりたいです。

ポジティブ・ネガティブと共に

ーー私はポジティブという言葉が苦手なんです。ポジティブにいられる人はいいよね、みたいな気持ちになってしまって…。ポジティブとは本当はどんなものなのかなという、見えないものを探しに島田さんのところにお邪魔したというのが今日の私の気分かなという感じです。

同じ風に感じている人が多いと思います。最初に私がお伝えしたいことは、ポジティブがよくて、ネガティブが悪いわけではないということです。ポジティブだとすごくよくて、ネガティブだとダメみたいに言われますが、両方大事で、両方をわかってるということがとても大事なんです。

世の中にはポジティブなものもネガティブなものもあり、どちらが秀でているわけではないいんです。エネルギーは同じで、向きが違うだけなんです。片方を知るには、もう片一方も知らなければいけないんです。

だから私はポジティブというものを選んでいるだけであって、ネガティブを知らないわけではないし、ネガティブを体験してないわけではありません。裏切られたと感じたことも、梯子を外されて、信頼してたのに…と思うこともあります。憎しみや怒り、悲しみを感じてきました。

それは自分の中で消えていくのに2年位時間がかかったものもありました。でもそれは時間が経ったから消えたのではなくて、ある私が、あるものの見方に気がついたときに、ふっと消えたという感じだったんです。その体験もすごく面白かったです。

時が経とうが、されたことで感じた感情を覚えていて、ふと思い出すと嫌な気持ちになっていました。でもある日、あの人も人の子なんだよねと思った瞬間があったんです。私が嫌いで、もう二度と会いたくないと思ってしまうあの人も、誰かの子どもであって、親御さんからはもう最高に愛されていて、しかも心からの幸せを願われている。でも一方この私は、もうイヤ、会いたくもないと思っている。その人はただただその人なんだと、と思ったらなんだかすごく許せちゃったというか…。

それは選択の問題だと思うんです。仮に、やってしまったことに後悔してしまうタイプだとして、その状態でこの後もいたいのかどうかを自分にきいてみたらいいかもしれない。もしかしたらそれがその人にとってのハッピーかもしれないんです。逆に変に無理して「Go!Go!」と無理に能天気でいることがよいとは限らないんです。だから自分が選びたい方を選べばいいんです。

でも実際組織やチームでやっていくときには、「Go! Go! やってみよう!」という人だけだったら新しいアイデアは出てこないんです。やっぱり両方必要なんです。一人ひとりがどちらを選んでもいいと思います。でもあなたはどちらを選ぶのか、どちらでありたいと思っているのか、どちらがハッピーや安心なのかが大切です。「本当はこっちがいいけど、こっちにしています」ではなくて、両方ある中で、自分にとって心地がよい方を見つけるのも自分らしさだと思います。

やるかやらないか

ーー自分の心地よい方を選ぶということは素敵な視点ですね。

そうなんです、選ぶんですよ。全部自分で選ぶんです。

ーー選ぶし、手放すものは手放していくし。

そうそう。だから人生は4つの掛け合わせでしか決まらないと私は思っています。好きか嫌いか、やるかやらないか。嫌いでもやると決めたらやるし、好きでもやらないこともあります。

だから世の中で起きることに関しては、「これ嫌いだな、でもこれはやっぱやるべきことだ」と思ったら、「何々すべき」とは思わず、やることだと決めてやる、という風に選んでいます。

ーー自分で選ぶという視点は、なかなか浸透していないかもしれないですね。

無意識にやっていることだからこそ、意識にあげることをお互いにできると、すごくいいんですよね。だから他者の存在が必要だと思うんです。

自分の考えだけだと、無意識のものを意識下に置くというのは、新しい刺激がないとなかなか難しいです。それが問いかけや事件が起こるといろいろな刺激があるわけです。自分で決めると脳の動きが変わるというのは脳科学でもわかっていることですし、自分で決めるというのはすごく大事だと思いますね。

ーーそういう意味でも、自分はこういう人だということを自分で受け入れられるのは大事なんですね。すごい自分でいなければいけないと思い過ぎてしまうから、自分の強みがわからないとなってしまうのかなと、いま思いました。

もうそのままの自分ですごいんですけど、そこに気づかずに、誰かと比べる、何かと比べる。そしてそこよりもダメだ、あの人よりもこうだ、と自滅している人が多い気がします。

気づきの場というのは、毎瞬、毎瞬あるんです。刺激を受けてない瞬間なんてないんです。起こること全てが気づきの場だと思うので、そういう視点で起きていることを見られるかどうかは、大きいと思います。

(インタビュー:寺中有希 2020. 1.9.)


プロフィール:

島田 由香(しまだ ゆか)
ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社
取締役 人事総務本部長

1996年慶応義塾大学卒業後、株式会社パソナ入社。2002年米国ニューヨーク州コロンビア大学大学院にて組織心理学修士取得、日本GEにて人事マネジャーを経験。2008年ユニリーバ入社後、R&D、マーケティング、営業部門のHRパートナー、リーダーシップ開発マネジャー、HRダイレクターを経て2013年4月取締役人事本部長就任。その後2014年4月取締役人事総務本部長就任、現在に至る。
学生時代からモチベーションに関心を持ち、キャリアは一貫して人・組織にかかわる。日本の人事部「HRアワード2016」個人の部・最優秀賞、「国際女性デー|HAPPY WOMAN AWARD 2019 for SDGs」受賞。米国NLP協会マスタープラクティショナー、マインドフルネスNLP®トレーナー。