ショートショート作家の田丸雅智さん。作品を書く以外にも、独自の手法を用いたショートショートの書き方講座を老若男女を対象に対面、オンラインで行っています。
苦手意識を越えて
ーー書き方講座をされていますが、書くことへの苦手意識がある人も多そうですね。
小学校や少年院、企業など、さまざまな場で行っていますが、特に小学生などは、国語や作文が苦手な子の方が多いです。
ワークをしているとき、僕は歩き回っているのですが、手が止まっていたり、これでいいのかなと迷っている人をいかに見つけられるかということと、見つけたときにどう引き出せるかが肝になります。
フリーズしているのか、深く考えているのかによっても対応が違います。「いまは黙っておこう」とぐっと待って、参加者からポロッと言葉が出てきた瞬間はむちゃくちゃうれしいです。
僕は、物語がない人はいないと信じているんです。ちょっとでもやろうと思っていたり、一歩踏み出せないけど踏み出したい気持ちが少しでもある人ならば、ショートショートを書くことができると言い切っています。
空想・不思議の世界に触れる機会
ーー少年院のプログラムでは言葉のハードルが高そうなイメージがあります。
2017年からやっていますが、僕の講座の最初のワーク「名詞を書き出す」でも、「できません・わかりません」と断言する率が他よりも明らかに高いです。
ーー不思議な世界に触れた経験が少ない子もいるかもしれないですね。
僕は空想がない子は基本的にはいないと思うんです。ゲームでも何でも、生きていれば何かしらの空想に絶対触れるものなので、それをいかに引き出してあげるかを大切にしています。
ーー田丸さんは不思議が好きなのですか?
僕が一番好きなのことの根本は「アイデア」です。ショートショートを説明するとき、簡単に言うと「短くて不思議な物語」と言っていますが、厳密にいうと「アイデアがあって、そのアイデアを生かした印象的な結末がある物語」なんです。
大事なのはアイデアで、僕はアイデアに一番そそられるというか、脳の快楽物質が出ますし、そこにニアリーイコールなのが「空想」だと思っています。
アイデアをつくるところ:メソッドの言語化
ーー日々暮らしていてアイデアや空想がぽっと生まれてくることはありますか?
アイデアが降りてくることもありますが、それよりはむしろ「つくりに行ってる」という感覚を意識しています。アイデアが降ってくるのを待っていると、枯渇すると思っています。枯渇問題に自分なりに対策をしているのが、「メソッドの言語化」です。
最初はたまたま思いついただけのものを、なるべく必然に変える作業をします。そうすれば次からは必然的に生み出せる可能性が高まります。「なぜそれを思いついたのか」「それはどういうシチュエーションだったのか」「これは言葉と言葉の組み合わせだ」と、アイデアがでてきた過程を言語化しておきます。そうすることで次に未知のお題があったときに、メソッド(方法)を使ってお話をつくることができます。
ーーいつも考えてるのですか?
そんなこともないですよ(笑)。誰かの話を聞いたり、何かに触れていることがフックやトリガーになって、僕の中で広がってしまうことはあります。でも社会生活の中でそれをやっているとコミニケーションが成り立たないので、僕はそれをやらない癖、人前では出さない癖がついています。
ーー本来はそういう性質が強そうですか?
本来はそうですね。空想癖ですし、非論理的で衝動の人間なんです。僕のプロフィールを見て、理系でロジックの人っぽいと言われますが、それは全部後づけで身につけた力なんです。本来はわけがわからないことを、ばーっと発散しておきたいタイプです。
空想溢れる世界に
ーーそのまま発散しっぱなしにしたいとは思わないですか?
それは作品の中でやっていて、普段はやらないです。やるのは家の中と仲いい人と飲んでいるときくらい。
僕は素を出さないのではなくて、出ないんです。小さいころ、感じるままに何かをぽろっと言うと、周りからおかしい、ありえない、天然、宇宙人などと言われることが少なくはありませんでした。それがすごく嫌で…。おのずとこういうことは言っちゃダメなんだと思うようになっていって、人前では出ないことが通常の状態になりました。
ーーそのまんま、ほっぽり出しの田丸さんが歩いていても面白そうです。
大分めちゃくちゃになると思いますけどね(笑)。ただそれがいまの書き方講座やショートショートを広めたいという原点のひとつになっています。
僕と同じような子や人がいるはずなんですよ。本当はもっと空想というアイデアがどんどん溢れていてもいいと思うんです。それだけでもダメですけど、世の中には空想やアイデアが溢れていなさすぎです。
もっと空想が当たり前になって日常の世界に入り込んでたら、もっと彩り豊かになると思います。ペットボトルひとつをとっても、「ラベルを剥いでいったら、下からどんどんラベルが出てきたらどうだろう」と思ったら、それは空想、妄想かもしれないけど、まず楽しいじゃないですか!
作法と衝動の両輪を回していく
ーーそれは確かに楽しそうです!
みんなの中に想像力や空想の種は眠っていますが、でも出てこないんですよね。いまの子どもには想像力が欠如してると言う人もいますが、そんなことは全然なくて、その出し方を大人が適切に設計してないだけなんです。
知らず知らずのうちに同調圧力みたいなものもあって、みんなで押さえ込んで、それが普通になって、ついぞ空想を使わずに人生が終わるみたいなことがあるような気がしています。
読書感想文は無駄だと言う人もいますが、僕はそう思っていません。極端な話、感想文や論文はどちらかというと「皮(がわ)」、お作法です。そういう部分も学ばないと、無茶苦茶になってしまいます。「皮」と共に、衝動を発信していくことを両輪でやっていくことで、お互いによい作用が出ると思っています。
ーー講座の中で自分の中にある「衝動」に気づくというのはいいチャンスですね。
感想文を書くありきの「皮」だけでは難しいです。でもショートショートだったらとりあえず不思議な言葉を文章にできる。書きながら「なんじゃこりゃ!」と衝動が生まれる。衝動ベースで書き進めていって、あとは細かいことはとっちらかっていてもいいから書いてみる、というのが僕の講座の特徴だと思います。
みんなで遊ぼう
ーー田丸さんの衝動はどこにありますか?
僕の衝動は、まず「生み出したい」ということなんです。とにかく僕は何かを生み出したい。でも生み出すだけではなくて、もうひとつ「誰かと共有して、一緒にキャッキャしたい」というところが衝動の全てです。
それは泥遊びしてる感覚とずっと一緒です。僕は砂を掘ってトンネルをつくったり水を流すのがめちゃくちゃ好きでした。シンプルにみんなと泥遊びをしていたかったんです。
でも周りの人がやらなくなり、それがすごく寂しくて…。小さい頃に、置いていかれたとすごく切ない気持ちになったのをはっきりと覚えています。
だからいまでも気持ちとしては「みんなで泥遊びしようよ!」です。「ショートショートは楽しいから、みんなでどんどんやろうよーっ!」なんですね。
足枷が外れていく
ーー田丸さんがショートショートを始める前と後の人生で大きく変わったものはありますか?
これまで抑圧しているだけだったものが、作品の中で解放できるようになりました。より自由になってきました。いまもより自由に足枷を外す作業をしている感じです。「これがペットボトルだ」というのは常識ですが、そうじゃないかもしれない。
ショートショートに親しむようになって、小説世界でも足枷を外したり、外し続けていますが、実生活においても、「これって決まりごとなの?」「これは誰が決めたこと?」というような視点は前より持っていると思います。
ーーいま、年々自由になっていっている感じがしますか?
明らかにそうですね。自由になっていますし、まだまだ足枷はあります。永遠になくならないなぁと思います。人はなんでも思い込んでいると僕は思っています。でも、それも思い込みかもしれませんけど(笑)
ーーどんどん足枷が抜けていった先はどんなイメージですか?
「空想で世界を彩りたい」というのが僕の最終ゴールですが、足枷が外れていったら、人がどう思うかよりも、自分の感じたままをシェアできるような世界になると思います。
言われた人も「押し付けられた」「わけわからないことを言われた」ではなくて、「あ、それも面白いかも」と思ったり、そのまま受け入れられなくても「部分的にはインスパイアされたぞ」と思うことで次の空想が生まれてる気がします。空想の連鎖ですね。それが生まれたらいいなと思っています。
ーー田丸さんご自身の足枷が脱げていったときに、そういう自分になれるような気がしますか?
人の事情がわかるようになる気がします。いままで全く理解できないような人の言動すらも、「もしかしてこういうことなのかなぁ」と考えたり、許せなくても理解はできるみたいな気がします。
ーーそれは書くことを通して出会っている感じですか?
それは確実にありますね。書くことを通じて「常識・ルール・思い込み」に常々、向き合っています。
揺れる機会と書く必然性
ーー多様な見方と田丸さん自身が思ってること、感じてることとのぶつかり合いやせめぎ合いはないですか?
それがあるから、たぶん自分の考え方が更新されていたり、改めて確信できたりしています。いろいろ考えて「いまのところ、自分のいまの考え方の方がよい気がする」と思うこともあるし、よい意味で揺れる機会になっています。
多様な見方を大切にしていますが、作品は自分に根ざしています。創作は多様な見方を知っても、最後は自分が責任を負う中で、自分の信じるものを書いていいんです。
創作は自分が生み出す必然性というのがすごく大事です。自分だけのものやオリジナリティを見つけるまでが難しいですが、その過程で向き合うのは、結局「自分」なんです。
他者の意見を気にしつつ、自分がどういう人間なのか、どんな創作スタイル、生き方なのか、どんなものに惹かれるか、ルーツはどこかということと向き合わないと、オリジナリティというのは出ない気がしています。
結局、最後は自分です。そういう意味では、書くことは自分を深掘りするよい手段になります。まだまだ続きますね、書くの人生も、書こうよ!の人生も。
(インタビュー:寺中有希 2021.3.18)
プロフィール:
田丸 雅智(たまる まさとも)
1987年、愛媛県生まれ。東京大学工学部、同大学院工学系研究科卒。
2011年、『物語のルミナリエ』に「桜」が掲載され作家デビュー。
2012年、樹立社ショートショートコンテストで「海酒」が最優秀賞受賞。「海酒」は、ピース・又吉直樹氏主演により短編映画化され、カンヌ国際映画祭などで上映された。
坊っちゃん文学賞などにおいて審査員長を務め、また、全国各地でショートショートの書き方講座を開催するなど、現代ショートショートの旗手として幅広く活動している。
書き方講座の内容は、2020年度から使用される小学4年生の国語教科書(教育出版)に採用。
2017年には400字作品の投稿サイト「ショートショートガーデン」を立ち上げ、さらなる普及に努めている。
著書に『海色の壜』『おとぎカンパニー』など多数。メディア出演に情熱大陸、SWITCHインタビュー達人達など多数。
田丸雅智 公式サイト:http://masatomotamaru.com/