インタビューvol. 38 杉田篤史さん「声を使ってハグ」

アカペラグループINSPiの杉田篤史さんは、「Beingーあり方を探求するメディア」自体がまだ未完成な中で、第1号インタビューを受けてくださいました。

今回はインタビューを受けてくださった当時、杉田さんが始めたばかりだったハーモニーを使ったワークショップ「hamo-labo(ハモラボ)」のいま、ハーモニーへの想いをオンラインでお聞きしました。

ハモラボ・オンライン

ーーあれからハモラボはどんな感じですか?

一つひとつの出会いが新しく考えるきっかけになっています。新しいことを思いついたり、いろいろな場所に行っています。そしていまはコロナの影響で、オンライン上にもハモラボの輪が広まっています。

ーーオンラインでハモるのは大変ですか?

集まってハモってこそのハモラボだと思っていたので、オンラインでやることは全く想定していませんでした。でもやらざるを得ない状況になったときに、いまやれることを考え、「おうちでハモろうオンラインアカペラ合唱部」を始めました。

入学式や卒業式ができなくなって、子どもたちはみんなで歌えませんでした。歌いたくても歌えない子達が歌える場をつくりたいと思ったんです。

zoomをつかった歌の練習は初めてだったので不安でした。でも発声練習を始めたら、それだけで子どもたちが生き生きし出したんです。

オンラインでは、音が遅れて聴こえてきたり、とぎれたりします。またクロストークできないようになっていて、一度に2声から3声くらいしか音を拾いません。なので全員の声は聴こえないのですが、ところどころでみんなの声が聴こえてきます。多少の時差を想像力で乗り越えてみんなで歌うと、ハッピーな気持ちになれるんだという発見がありました。

触れ合い

ーー「想像で乗り越える」というのはオンラインならではですね。

集中せざるを得ない状況になるので、ある意味鍛えられるのかもしれません。オンラインでコミュニケーションやハーモニーをうまく取れるようになったら、リアルで会ったらもっとすごいと思います。

ーー触れ合えないもどかしさはないですか?

もどかしさはあります。それは僕だけじゃなくて、世界中の人が感じています。ライブの映像を見ると、ライブ会場のことを思い出すだけでぐっときます。ライブって本当に素敵な空間だったなと。

ハモラボについてもより考えるようになりました。人は触れ合うということが喜びなんだなと改めて思います。会えなかったり一緒にいられないからこそ、ハモりたい、会いたいと思います。その想いがこんなに強いんだと思いました。

ハーモニーは声を使って触れ合う、声を使ってハグをするようなものなんです。だから人とハモると幸せな気持ちになります。ハーモニーというのは人の欲求の根源なんだということを、このコロナ期間に確信を持てました。

ハモりから学んだこと

ーー前回のインタビューは3年前。まだハモラボを始めたばかりの頃にお会いしましたが、歌を教える人としての変化はありましたか?

あったと思います。ハーモニーについて人に話すと、ハーモニーについて考えるきっかけになります。人に話しながら、同時に自分の中のハーモニーに対する観察が深まります。

話している瞬間に、すごい集中力で自分の中で「なんでハーモニーを続けてきたのか」「どこに魅力を感じているのか」「なんでいまハーモニーを世の中に伝えようとしているのか」ということを考えています。人に話しながらハーモニーについて研究している感じです。

ーーなぜここまでハーモニーを続けていると思いますか?

大学生のときにアカペラを始めてから、すごく新鮮な楽しさもある一方で、なぜこんなに難しい音楽を選んでしまったんだろうと何度も後悔してきました(笑)。楽しいけど、しんどい。

アカペラは自分の声が楽器です。声なので常に同じ音は出ません。例えばピアノやギターはちゃんとチューニングすれば、弾き方によって音色が変わるとはいえ、ある一定の調和をキープできます。

でも人の声は常に同じ音ではなく、動いています。そういう音をひとりでも安定させるのが難しいのに、不安定な6人が集まって、ひとつの音の作品をつくるとなると、本当に苦しいんです。

お互いの気持ちのいい音の距離や、お互いの持っている波が同調することは、ごくたまにしかありません。難しいなと思いながらやっている中で、たまに「いますごくハモったぞ!」という瞬間があります。声を使って、ハグして、自分ひとりではない世界のひとつになれるんです。それはやっぱり、自分ひとりでは得られない大きな幸せであり、次元の違う幸せに触れられる瞬間です。

音を観る

ーー歌うことに苦手意識がある人については?

ハモラボのワークショップでは、技術は最低限でいいと思っています。僕はまず技術よりも、「誰かとハモりたい」「ここにいるみんなとハモりたい」という想いの方が大事だと思っています。そういう想いをおろそかにして、技術だけ追いかけても、ハーモニーは成し遂げられません。

音程を合わせることばかりに意識がいくと、余計に合わないんです。もうちょっと高くと言われると、緊張して余計下がってしまったりします。

そういう意味で、視野を狭くするのはよくないんです。ハーモニーに対しては、まず視野を広くするということを伝えたいと思っています。

ーー歌なのに視野なのですね。

そうですね(笑)。僕は人の音を「聴く」というよりは、「観る」とハモラボで伝えています。人が出している声には、実はいろいろな倍音があります。いろいろな音が鳴っている中の一番目立つ音が聴こえているだけなんです。

人の声を聴くとき、いまどんな音が出ているのか、その人自身が本当はどういう音を出したいと思っているのかを想像しなくてはいけません。

「体調がちょっと悪いから、いまはこういう音になっている。でも本当はこの人はこの音を出したいんだろうな」と想像するところまでがハーモニーの「聴く(観る)」だと思っています。

そういう意味で「聴く(観る)」というのは、シンプルに耳で聴くだけではなく、視覚や想像力を使って、その人がやろうとしていることを理解する。英語なら、わかるという意味で「see」のイメージの「聴く(観る)」なんです。

ーー聴きながら、すごく観ているのですね。

観察することによって、得る知識の量も格段に増えます。「なぜこういうことが起きたのか?」「起きた原因は何か?」と考えることで、「この人はどういうことを思っているのだろう?」「どういうことを思ってきたから、こういう行動をしているのか?」と想像できるようになると思うんです。そうやって常に観察する癖をつけることは、その人の人生にとって大事なトレーニングになるはずです。

ーー観る癖はどうやったら鍛えられますか?

興味がないと観察は続きません。でも「興味を持ちましょう」と言っても持てません。だから興味のあるものからスタートしたらいいと思います。

僕は前回のインタビューの頃(2017年)、東京から逗子(神奈川県)に引っ越しました。逗子に来て日常の中で海に行くことが増え、SUP(スタンドアップパドル)を始めました。

波に対抗しても絶対勝てません。波を受け入れていくんです。波は上がったり下がったりで、同じ波は二度とありません。刻々と変化していく中で、変化していくことを全部受け入れて、身体の緊張を解いて身を任せます。それによって、気づいたらラクに立てるようになり、恐怖心もなくなっていきます。

いろいろなことを全部受け入れていく過程は、人とハモるときと一緒です。周りに鳴っている音に対して、対抗して喧嘩をしていたらハモれなくて苦しいだけです。

一旦全部を受け入れて、その中で柔軟にニュートラルに変化し、その内に合う瞬間が来るだろうと鷹揚な気持ちを持ちながらやっていけば、自然とハモっていけます。

ハモラボを始めてから特にそうですが、全てがハモりにつながっています。森羅万象が調和をしたり不調和に陥ったりの連続だと感じます。

不調和から調和にみんなで向かう

ーー調和と不調和を行ったり来たりしながら、調和を探すから豊かなものになるのですね。

不調和があるからこそ、調和が輝きます。たまにしかハモらないからこそ、喜びが増します。そういう意味で言うと、ハモラボは調和状態を学ぶのではなくて、不調和状態を学ぶことなのかもしれません。

調和した状態を楽しむのではなくて、不調和を楽しもうとする。不調和だって楽しいよって。だって不調和が当たり前だし、その中で観察したり考えたり喧嘩したりしながら、調和に行こうとする姿勢や営みが素晴らしいと思うんです。

ーーすごいダイナミックなことですね。

めちゃくちゃダイナミックなんですよ!周りを聴いて、みんなの声を合わせて、似せようとしていると、全員がこじんまりとした声になってしまいます。

そこには一人ひとりのギザギザがないから、整っているけど、感動を起こさないハーモニーになってしまうんです。

新たなスタート!

ハモラボは昨年、法人化し、「株式会社hamo-labo」になりました。昨年40歳を迎え、新しい人生が始まったような感覚でやっています。会社といっても、結局僕がほぼひとりでやっているようなものですが、覚悟を示すという意味で会社にしました。

新しい人生が始まったぞ!と思った瞬間にコロナがあり、人生そんな簡単にいかんなーと(笑)。人とハモることを通して、いろいろなことを伝えていこうと思っていたのに、人と会えなくなってしまいました。

でも、振り返ると、調子よくトントン拍子で行っていたら、いまあるものはないと思うんです。うまくいかないからこそ、肝も座り、それを乗り越えることが自信になります。全部血となり肉となっています。

違う音があるからハーモニーができます。音程も違えば声質も違う。違う声が集まるとはじめてハーモニーができます。違うということの価値をすごく感じています。

「みんなちがってみんないい」とよく言われていますが、本当に違っていいんだということはなかなか体感できていない。僕は20年アカペラをやってきて、やっと感じられるようになってきました。違うことの良さに確信を持ってほしいです。これからも違うことの価値を伝えていきたいです。

(インタビュー:寺中有希 2020. 6.16)

プロフィール:

杉田 篤史(すぎた あつし)
アカペラグループINSPiリーダー
株式会社hamo-labo代表取締役CHO
NPO法人TOKYO L.O.C.A.L 理事
一般社団法人文果組 理事

1997年大阪大学でINSPi結成。2001年フジ系「ハモネプ」出演、メジャーデビュー。 THE BOOM宮沢氏や長渕剛氏らと楽曲共作。2005年より日立CMソング「この木なんの木」担当。2015年NHKみんなのうた「ドミソはハーモニー」放送。2017年コクヨテープのり「ドットライナー」テーマソングを発表。2017年よりアカペラハーモニーをつくることでチームビルディングを学ぶ「ハモニケーション®︎ワークショップ」をスタート、三菱重工業・コクヨ・リコージャパン・東洋大学・滋賀県草津市・愛媛県西予市野村町・さいたま市教育委員会などで実施。インドネシア、タイ、モンゴル、ウズベキスタン、カザフスタン、メキシコ、ブラジル、アメリカ、香港・ミクロネシアなど海外公演と現地でのワークショップ多数。2018年より東京荒川区の地域活性化と全国の災害支援に取り組むNPO法人TOKYO L.O.C.A.Lの理事を務める。2018年7月の西日本豪雨で被災した愛媛県西予市野村町の子どもたちと共に町の歌をつくるワークショップを経て「のむらのうた~がんばってみるけん 応援してやなぁ~」を制作。一年の追悼式でも野村小学校合唱部により歌唱された。2019年2月株式会社hamo-labo設立。野村小学校6年生のオンライン授業として西日本豪雨から立ち上がってきた2年間の歩みを歌にした「のむらからの手紙~応援するけん がんばってや~」を制作、2020年7月7日に公開された。2020年より「文化」で人と人とがつながり、関わる皆で多種多様な「果実」を実らせることをミッションとして大学教授・.企業家・元プロ野球選手・歌手・落語家らが理事を務める一般社団法人文果組の理事につく。現在、愛媛大学社会共創学部 羽鳥 准教授らとハモりと社会合意形成の関連について共同研究をすすめている。

株式会社hamo-labo

「のむらからの手紙 ~応援するけん がんばってや~」

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