学校の根幹行事である「夢合宿」(学年ごとに行われる7〜10日の宿泊プログラム)の中でロープスコースを活用している郁文館夢学園の井上先生、吉田先生にお話を伺いました。

挑戦する経験

ーープログラムを見ていかがですか?

吉田先生(以下敬称略):男女間でなかなかクラスがまとまらないときがありましたが、ハイエレメントなどを通して、お互いが助け合い、声をかけあって仲が深まっていくという印象があります。

ーー生徒の皆さんはPAで何を学んだと思っているでしょうか?

吉田:失敗をすることは悪くないということや、挑戦する勇気を学んでいると思います。夜のふりかえりでも子どもたちからそういう言葉をききます。

井上先生(以下敬称略)学校生活でいつも元気に活発に活動している生徒が高いところで足がすくんで動けなかったりと、違った一面が見られます。

人の一面しか見えていなかったのが、PAを通して多面的に見る機会が生まれています。そういうところから親近感や失敗を許す優しさが生まれ、育まれていると思います。

学年によってはデモンストレーションとして、教員が4人組でジャイアントラダー(ハイエレメント)をすることもあります。教員の挑戦する姿勢を見せることで、子どもたちが活動に入りやすくなったりしています。

学びを教室に

ーー合宿での体験はそのあとの学校生活で生かされますか?

吉田:合宿後には仲良くなりますね。また言葉づかいに気をつけたりして、人として成長しているなと感じます。

井上:合宿での学びをどうクラスに持ち帰るかが大切ですね。どういう体験をしたか、どう感じたかを教室に掲示しています。

そうすると体験のときのことが蘇ってきて「そうだよね、協力しないとだよね」というような話になります。最近はふりかえりが定着していて、生徒の取り組みもよくなってきていると思います。

ーーどうしてできるようになったのですか?

井上:いろいろな要因はあると思いますが、夢合宿の経験が学校生活に非常に有益に働いて、人間関係を構築していっていることを教員が認識しているからではないかと思います。

クラスで「夢合宿のプログラムを思い出そう」と話したりして、プログラムの学びを教員が生かせていると思います。

一歩踏み出す経験

ーーこのプログラムの強みは何ですか?

井上:ひとことでは難しいですが、チャレンジです。チャレンジしたいと思うけれどなかなか踏み出せない、失敗はいけないことだと思っている生徒もいます。

チャレンジから学べることがたくさんあること、ひとりではできないことも仲間との協力でできることを体験して学び、人としての成長することができるプログラムです。

協調性と他者への思いやりを育むプログラムであり、それと同時に自分の弱さと向き合い、そして打ち勝つプログラムでもあります。打ち勝てなかったとしても、一歩踏み出せるプログラムですね。

ーーどんな場面で一歩踏み出していましたか?

井上:サッカー部のキャプテンがパンパーポール(ハイエレメント)をやったときのことです。どんなに苦しい練習でも絶対に弱音を吐かない子が、ポールを登っていって、いざトップに乗ろうとするところでもう無理だよと泣き出して…。

周りがどよめきました。その後、行けるよ行けるよ!と声援が飛び、その中で泣きながらジャンプしたシーンは忘れられません。たぶん、周りに仲間がいなかったらやらなかったと思うんです。

吉田:なかなか学校に来れなくてグループの輪に入れなかった子がジャイアントラダーをしていたときに、周りの子に手を差し伸べていて感動的だったこともありました。

教員がファシリテーターに

ーー昨年度は先生がプログラムを実施されました。

吉田:昨年度は中1が新型コロナウィルスの影響で合宿に行けず、校内プログラムを実施し、教員が初めて指導しました。

ーーいつもはPAJファシリテーターが行うのを見守っている先生が指導することになり、どうでしたか?

吉田:先生自身が楽しんでやっていた印象がすごくあります。先生が楽しんでいたので、生徒たちも楽しそうに、積極的に参加していました。

生徒に伝えたり誘導する方法に悩んでいる先生もいましたが、先生同士やPAJスタッフと相談して、試行錯誤しながら進めていました。

(教員研修の様子)

井上:私は昨年度のプログラムを見ていないのですが、前日のPAJファシリテーターによる教員研修を見て、教員が非常に明るく、積極的にやっていると感じました。職員室が明るかったのが印象的でした。

成功や失敗ではなく、チャレンジすることに対して、どうやって前向きに、声かけできるかが大切です。強制的に押し付けてしまうと外発的動機づけになり、内発的になりません。いかに内発的に自ら一歩出るかという声かけはやってわかることが多いです。

今回、学内でプログラムを実践したことにより、教員の中にいろいろな思いが生まれたのではないかと思います。

ーー今後も先生がやるのですか?

井上:クラス替えもあるので、中2、中3などは年度始めのオリエンテーションでアイスブレイクなどをするのもいいかなと思っています。

私は毎年、体育の授業で「エブリボディ・アップ」(手をつないでみんなで立ち上がる活動)をやります。めちゃくちゃ盛り上がります。

夢☓アドベンチャー

ーー学校の理念とアドベンチャーはどんな風に関連していますか?

井上:本校の「7つの約束」の「他人の喜び悲しみを共有せよ」「正しいと信じ決めたことは諦めず最後までやり遂げよ」などに深く関連していると思います。

紆余曲折はあるにしても、やると決めたことにチャレンジしていくことは、PAの取り組みとすごく一致していると感じています。それゆえに、PAは本校の夢合宿における重要な柱となっています。

夢には個人差があります。明確に描けている子も、見つかっていない子もいます。夢を持つことがよくて、持たないことがよくないのではありません。夢をまだ持てていない子達にアプローチするために、さまざまな取り組みをしています。PAも夢のスイッチをいれるきっかけのひとつです。

自分さえ良ければいいという考えは、一瞬は成功しても最終的には成功しません。だから協調する、他者を思いやることは、自分自身が幸せな生活をつくるために非常に重要だと思いますし、それを実践できるのがPAだと思います。

本校では、すべての活動をSDGsと結びつけて実施していますが、最も大切にして難しいといわれるSDGsの17番「パートナーシップで目標を達成しよう」を学ぶのに、PAのようなプログラムは最適だと思います。

まずは身近なコミュニティのパートナーシップをつくり、それが徐々に広がっていく。学内だけではなく学外に出てもパートナーシップをさらに磨きをかけていく中にPAが生きるのではないかと思っています。

吉田:実際チャレンジする、一歩踏み出すということが大切だなと思います。夢を探せていない子もいると思いますが、本校にはきっかけがたくさんあります。そういうところで一歩踏み出そうと思えるのは、学内にPAも含め、いろいろな体験があるからだと思います。

これからに向けて

ーー生徒の皆さんが夢を実現するために、これからもっと必要になることは何でしょうか?

吉田:継続するというところがまだ足りないかもしれません。私自身の課題でもありますが、日常生活に生かしていくことが大切なので、そこを伝えていきたいです。

井上:学内で学びが醸成されていくことをもっとしていきたいです。教員側も学びを積み重ねていくことで、生徒への指導も変化していくと思います。子どもたちの内発的な、火をつけるような声かけをもっともっとブラッシュアップしていきたいです。

(20210521)

郁文館夢学園ロープスコースCASE
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